KFS 講談社フェーマススクールズについて


昔受講していたKFSの教材だ。(1970年代後半のもの)
大きさは35×45cmくらいで布張りのゴツいバインダー式教材。重さは4冊で11kgくらいある。
私は1974年からパッケージデザインの仕事をしていたが、プロになってしまえばそれで良いというものではなく、自主的にアート系の通信教育「KFS」のCommercial Art Courseを受講していた。50年近く前の新人デザテナーの給料を考えれば、なかなか大変な出費だったのだが、まだ二十歳前後の若者には勉強したい(腕を上げたい)という気持ちが最優先だった。


人物デッサン・クロッキー辺りの教材の一部。
これとは別に、仕事帰りにKFS主催のデッサン教室に通っていたこともある。そこで生まれてはじめて裸婦モデルに遭遇したのだ。戸惑いがあったのも、先生の「モデルさんお願いしま〜す」の声で黒いマントのようなものを羽織ったモデルが控室から出て来るまでだ。先生が「最初は立ちポーズで10分です」と言い終わらないうちに、マントを落としてポーズをとっている。事実として裸の女性がいることに間違いないのだが、そういう意識はすっ飛んでしまうのだ。


KFSはアメリカの「Famous Artists School」との提携で、アメリカのかなり知られた画家、イラストレーター、デザイナーが指導教授として名を連ねている。ここに出ている人たちは、当時の人気アーティストで大ベテランも多い。まあ、こういう人たちは教材を作って作例を見せてくれるが、直接指導してくれるわけではないのは仕方がない。残念ながら、ここに写真の出ている人たちは現在ほとんどが鬼籍に入られている。日本での指導教授も何人も居たが、当時まだ若かった画家の佐々木豊氏が私の課題作品に肉筆の指導を送ってくれたのを覚えている。


これは指導教授の一人ボブ・ピーク氏が制作したアートワーク。映画「マイ・フェア・レディー」の封切り当時のポスターだ。完成品の見本が出ているだけでなく、そこへ行くまでのラフスケッチや部分的なスケッチ、レタリングの検討資料なども教材に入っていて制作のプロセスがわかるようになっていた。

KFSはすでに無くなっている。ネット上には「勧誘がしつこい」「受講料が高すぎる」「詐欺じゃないか」という批判的な話が多い。しかしそういう事を書いている人たちは「勧誘がしつこいから頭にきて断った」「受講料が高すぎるから受講しなかった」「詐欺だと思ったので契約しなかった」という、ほとんどそういう人たちなのだ。受講もせずに批判している人たちなのだ。
実際に受講してみたら「課題が難しすぎる」「課題が多く提出期日が厳しすぎる」という事で「解約しても受講料は戻ってこない」という批判も上がっている。だけどそれは当たり前で、文句を言う方が間違っていると思う。
実際受講していた私にしてみれば、受講料が高くても、それに見合う以上の講座内容だったし、課題が難しいのや課題が多いのはありがたいくらいのもので、提出期日も2年の講座を4年まで自動延長できるのだから厳しすぎるとは言えないだろう。
私にとっては得るものが多かったし、KFSを受講できて良かったと思っている。

通信講座とは別にKFS主催のデッサン教室に通ったことは上でも書いた。
画材はその日によって鉛筆だったり木炭だったり、水彩絵の具、油絵の具でのクロッキーもやった。時間は6時半から8時までだけど、9時までは残って自分の絵を描いても良いことになっていた。教室が終わった後で気の合った人と喫茶店で喋ったりしたことも。でも家が横浜で勤務先が銀座だったから、通勤ルートから外れる赤坂には通いにくくてね。遅くなると終電ギリギリ(相鉄の終電は午前0時過ぎ)なんてこともあった。週1回の教室に20回以上は通ったけど、仕事が忙しくなったりして通うのが難しくなってしまった。
人数は日によって多少増減があったが、大体20人ほど。私の他にもう一人現役デザイナーの人が居たが、何か他の仕事(多くはアルバイト)をしながらアートの世界に入りたくて勉強をしている人が多かった。少ないが学生も主婦も居た。随分良い勉強になったと今でも思うよ。